『戦国の黒百合~ふたなり姫と隷属の少女~』の感想文

あらすじ
 戦国時代。上洛の準備を進める織田家
 浅井家との同盟の話が迫っていたが、その成立にはある条件が必要だった……。

・公式サイト「言葉遊戯」
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キャラクター

朔姫(C.V.涼貴涼)
 モデルは「お市の方」となるのでしょうか。織田家の頭領である信長の妹。

 彼女はもともと身体的には普通の年若い女性で、生来から怜悧で狡猾かつ嗜虐趣味のある性格。ある出来事が起きて半陰陽の身体となってしまいます。

 半陰陽。女性であり、男性でもある状態。朔姫は端的に言って「本来の女性の身体に加えて、男性器を備えた身体」となるのです。
 本作において男性器は「止まることを知らない欲望の象徴」として描かれているように感じました。

 どんどん、朔姫の攻撃性・渇望が増大していくのです。
 彼女はもとから腹のなかで黒い情念が渦巻いている人物で、取り巻く状況が否が応にもその性質を引き出していくのですが、それだけでは説明できない「加速」。

 男性器が備わった晩の性衝動の高まりや、それ以降の衝動の処理の仕方、こころの変化は異常です。

 強い理性のもとに抑えられていた獣の解放。これこそが本作の見所なのかなと、ぼくは思っています。うつくしいものが壊れていくところは儚くて、とても気持ちがいいものなのです。
 最初の動機は「兄に『自分』というものを認められたい、理解して欲しい、受け入れてもらいたい」という、シンプルなものだったのだと、ぼくは思いますので。

柚々(C.V.雪花蜜)
 織田家家臣・森三左衛門の娘。

 やさしく穏やかで、とても気のつく性格。「たおやか」という言葉にこめられたものを一身に背負っているかのような造形でした。

 作中で朔姫も言っていますが、汚れを知らないこころや身体が傷ついていく様は非常にいとおしさを抱かせます。身体は傷つき、こころは情念に振り回され、乱れていく。けれども、決して失われない清らかさ。

 ぼくはこの清らかさが失われて欲しいとも思いますし、失われて欲しくないとも思います。そんな二律背反した気持ちを抱いてしまうのです。

 温泉での、一連の出来事。こころが震えました。

(C.V.分倍河原シホ)
 織田家、というよりは、朔姫の忍び。
 忠義のひとで、何よりも朔姫のことを第一と考えるその姿は常にどこか哀切を帯びています。

 ほとんど自我というものがなく、人形のように振舞う彼女。しかし、たしかに存在するやさしさが垣間見える場面がいくつかあって、強く惹かれるものを感じました。

 柚々に対する反応が、経過によって変わっていくのもすばらしい。

織田信長
 織田家の頭領。じゃじゃ馬の妹に悩まされる苦労人でありつつも、冷静かつ果断な指導者。

 ぼくが思うに、信長はあまりにも朔姫を愛してしまっていたのではないか。だから、傍に置きたくなかったし、手を汚れさせたくなかった。つまり、朔姫の洞察と違い、彼は「分かって」いたのではないか。

 お互いがお互いを思い遣った、仲のよい兄妹。ちょっとしたボタンの掛け違いで、この関係が崩れていく様。心が苦しくなりつつも、同時に燃え上がります。

木下藤吉郎秀吉
 一癖も二癖もある人物でいわゆる「道化を演じている策士」。最初は彼を嘲弄し、ひととしてすら認めていなかった朔姫。そんな彼女に自分を売り込み、認めさせていく一連の流れは秀逸でした。

 彼の発言は「あれそーびたん脳みそ沸いてんのかな」と思うぐらいに突き抜けており、作中に漂う暗鬱とした空気を一掃してくれる働きをしてくれました。
 秀吉の存在は作中の登場人物たちだけでなく、プレイヤーの緊張感もいい意味で解いてくれるため、物語にメリハリがついているように思いましたね。

 「わ★ら★じ」は作中屈指の名台詞!!(≧∇≦)

明智十兵衛
 朔姫に忠義を尽くす侍。どうやら浅井家の家臣のようなのですが、モデルはわかりませんでした。

 目つきは鋭く、痩身。人物そのものが、刃のような印象でした。朔姫への忠義の「質」や「理由」など、深く知りたいと思いました。次作以降で掘り下げられることに期待しています。

追記:公式サイトみたら「明智」でした。次作以降こそ、映えるのでしょうね。とても楽しみになってきました。

森三左衛門可成
 表面上は実直な壮年なのですが、腹に一物持った人物。
 作中でも、ある意味では秀吉を超える絶妙ないやらしさを持っていて、それが「匂わせる」程度なのがまた心地よいと感じました。

少女(C.V.天川みるく)
 作中で、朔姫たちは温泉郷へ赴く場面があります。そこで出会った……と言いますか、蔓が「買って」きた少女。
 出番は短いのですが、「捕食」されるかのような弱々しさとともに、ある種のしたたかさも感じられました。
 この少女だけのことではなく、作品全体を通して「脇役」にも微妙な人物造形の巧さが光っていました。

 ぼくの個人的な好みの範囲を越えないかもしれませんが、役者さんの演技が精妙で強い印象を残しましたね。

感想
 グラフィック、音楽、シナリオ、すべてが高いレベル。特にシナリオは商業作品でもなかなか見かけない逸品でした。

 史実とifの要素の混淆が絶妙の一言で、違和感を抱かせません。
 決まり切った展開であるのにも関わらず、話の都合で動かされるキャラクターは存在せず、すべてが自分の意志を持っていて、それぞれの望みを叶えるために行動している。生き血が通っています。

 特に心情描写が秀逸で、すべてのキャラクターから生臭い人間味を感じます。商業作品では忌避されるような人間の奥底にある、嘘偽りのない情動の描き方は神懸かっていると言っても褒め過ぎではありませんでした。

 そうした要素に魅力を感じない方でも、リアリスティックな世界観で描かれる戦国乱世に惹かれる方にもお勧めの作品となっています。