「ミラーボール・フラッシング・マジック(ヤマシタトモコ著)」の感想文です

 ヤマシタトモコさんの漫画がおもろいよね、と言っていたところ「貴様はきっとこれが好きだろう」と勧めてくれるひとがいて読みました。
 私はkindleでセールがあると「おっなんか買っておくか」という気分になり、脳内になる作家買い確定(いずれ既刊全巻集めよう)リストにある作家さんの作品をちまちま買い集めており、標記の作品も既に買っていました。

 中年男性になってしまったので、買っても未読の本ばかり増えていきます。すべて加齢がいけない。私は悪くない。

 でも、上の事情で読みました。「え、それ持ってるじゃーん」となって、ひとから勧められたとなればそれが人生で読むタイミングなのだろうと思ったのです。天の采配なのです。私は判断していない。私じゃなくて天が決めたこと。

 読むと短編集でした。これは気楽に読める。ふつうは。でもヤマシタトモコさんの作品は気楽に読めないんだよな。中年男性のやわなハートを刺してくるところがある。中年男性は誰にも見えない血を流しながら読むことになる。中年男性はいつもそうなんだ。(ほんとは全人類がいつもそうだと思ってる)

 

 

 

 

◇うつくしい森
 中年男性なので「ああ、これは思春期の厄介さだ」と思ってまず読んでしまった。森口くんはそういうものに囚われてしまって、抜け出せなくなっている。でも美術のハナシなので、それはアートに昇華出来る。そういう風に読んでしまった。
 でも、読み終わって分かりました。
 韜晦を続けている、アウトサイダーにもインサイダーにもなれない半端ものほうが何かに捕まってしまうお話なんだな、と。中年男性なのでそう読んでしまう。中年男性なので。

ミラーボール・フラッシング・マジック
 表題作。奇跡のハナシだよ、と言われて読んだ。短編集に入っている短編漫画なのに、ひとつの時間軸で同時に起きていることがらが多面的に描かれている。こんなの映画で観たな。マグノリアみたいな。

 愛に気づく。愛に追いつかれる。UFOを見つける。お互いの輝きを認め合う。

 個人的な事情で、「UFOを見つけてしまう」=「存在しないと思っていたものの存在を認めてしまう」=「人を愛したり愛されたりということがこの世界に在ることを知ってしまう」という物語の流れに眩惑されてしまうんですね。眩惑です。目がくらんでしまう。

 本作は、「UFOだったね」をお互いが諒解したので、それはすなわちお互いが一緒の夢を受け入れるというハナシで、ちょっと泣けちゃうな。UFOが見えなかった場合のこと、あるいはほんとは見えてたのに見えなかったことにしてしまうことを思い出してしまうので。

 世界が平和でありますように。

 奇跡のお話でした。読むとちょっといい気分になる。

◇don't TRUST over TEEN
 こんな短編なのに群像劇めいてる。まあでも短編でこういうのをやるのがヤマシタトモコさんか。そうか。なるほど。そういえば他のもそんな感じだな。

 正体不明。相手も、自分も。姿かたちだけでなくこころも。
 自分のうちからあふれてる感情だけがあって、ぼくは最近そういうの「脳内物質の事情」「何らかの事情で特定の物質の出がよくなっている」という風に言っちゃうんですが、でも仮にそうだとしても、やっぱりまあ人間はですね、そういうものにも名前をつけて、アイとかコイとかスキとかキライとかってことにできちゃうんです。ことばは単にことばでしかないけど、信じられれば力なので。(中年男性はすぐ往年のアニソンが頭に浮かぶ)

 でもすっきとか~ きらいとっか~ のほうかもな。浮かべるべき歌は。

◇blue
 未成熟。気分の落ち込み。枯れるものと生えるもの。

 「こども」という認識で容赦しちゃったけど、なかなか誠実さに欠けるな。だからまあぼくはこの若い男の子がまたここに戻ってくることを期待します。それから誠実になればいいので。お互いがね。

◇いつかあなたの不思議なおっぱい
 上記のblueの反対のような、さらにそこに「うつくしい森」を足したような。アガペーとエロース、言うて切り離せないんだよなと思う。
 竹平くんはなんだかんだクズで、だれにも「ほんとう」を見せていないんですが、うっかりやっちゃんにチューしてしまったんですね。それが届いてしまっているのが、bonus track で、これは蛇足ではなくて、「ああ、竹平くんの”ほんとう”が届いて、しかもそれが結実してよかったね」と思いました。まあなんかそうなると、この物語はまたぞろぐちゃぐちゃしちゃうんだろうな。母娘関係や、竹平くんがなんだかんだ大切に扱ってきたものが壊れてしまうんだろうな、とも思う。中年男性は余計なことばかり考えてしまうな。中年男性だからな。

◇カレン
 こういうありがちな感じのも描くんだ、と思っていたが、でも「ずっと友達以上恋人未満だった男になんとなくフラれる」ハナシではなくて、名前を呼ぶハナシで、名前を呼ばれたいハナシで、名前を呼びたいハナシだったので、なんかぐさっと来てしまった。

 可憐だったからびっくりしたんでしょうね。でも、そう成りたかったものに成ってみたものの、ほんとうに呼ばれたかったのは由香なので、やるせないですね。中年男性は血を流しました。でも中年男性なので溺れることはありません。それが中年男性なので。

◇エボニー・オリーブ
 受粉のハナシ。だからまあつまりずっと受粉のハナシなんですよ。そして信じることでちからが生まれるハナシ。でもまあ信じてもうらぎられることがある。でも信じたいのは未来なんで。壊された過去じゃないんで。(中年男性はすぐゲームの主題歌が頭に浮かんでしまう)


◇おわりに
 面白かった。ヤマシタトモコ作品の登場人物はみんな独立した個人でいいな。それがフラットに、寄り添い合おうとしている。なんだかんだ読み終わるといい気分になります。なりました。おすすめです。

 

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