『Dies irae -Also sprach Zarathustra-』の感想文です

 ツァラツゥストラはかく語りきって副題が付いているゲームはゼノサーガエピソードⅢに続いてこれで二本目。とは言え、物語としてはハガレンちっくでありました。主人公がホーエンハイムな感じで。

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 以下作品の重大なネタバレを含むというかむしろネタバレしか書いていません。
 ご注意くださいね~。


 表向き、テーマとなっている永劫回帰。これは本作に複数のルートがある時点で打破されるんだろうなってことは明白なんですが、やや違和感。司狼はなんで双方のルートで既知感を得ていたんでしょうか。や、ゲーム世界はパラレルワールドなんで細かいツッコミはなしよ、というのはよく分かるんですが、そこに拘りがなければ勿体ないと思うんですよね。本当なら一枚上のシナリオになり得たのなー。
 でもまあ、これも複数ライターの弊害なのかもしれませんね。そうせざるを得なくなった時点で、ある程度のクオリティダウンは覚悟していたんでしょう。

 ただ、まぬけづらなんかが思うのは「ラインハルトは当初既知感を得ておらず、メルクリウスとの会話によって初めてもたらされた」「メルクリウスは自分の存在を消すことで、世界の全てを壊したかった(居るとすれば、神に反逆したかった。あるいは、この世の法則を越えたかった)」なんてことを考えると、いちばん単純なのは「永劫回帰などしていなかった」、でしょうか。
 司狼やエリィはこの既知感を呪いと呼んでいて、やはりある男からもたらされたと言っていました。この辺が意味深で、興味深い点でもあります。
 そういえば彼ってば団員たちへも呪いのような予言と称号を与えていました。メルクリウスの言葉をそのまま受け取るのであれば、彼は既知感こそ得ているが未来は見通せていないわけで、やはり、永劫回帰による既知感なんて存在せず、ただ人の感覚を惑わせたり、時に操作したりする魔法があっただけなのかなー、なんて。

 まあ、その辺の説明がなかったので何とも言えない話ではあるのですが、本来のプロットではシナリオ構成にミスや妥協がなかったのかもしれませんね、ということで。

 個人的に好みなのは、世間様では評価の高いマリィルートではなく香澄ルートでした。こちらで蓮くんが戦うのは、自分と同じ存在。魔人に運命を狂わされたけれど、それでも必死に抗う存在。自分の思う通りに、誇りの通りに生きようとする存在。
 大切な人を、大切な時間を、思い出を守りたいだけのそんな存在と相対するわけです。で、このお話の答えは体験版部分で既に出されている。曰く、「そんなことされても嬉しくないよ」です。ひとりで全てを抱え込むのではなく、ふたりで分かち合わなければ、その結末は幸福ではない。

 ってあれ、神父側は確かにそれが出来なかったけれど、蓮くん側にしたって出来てn(ry

 ひととひとが完全に心を通わせることは不可能で、しかし、だからといってその歩み寄りを止めてしまうのは愚の骨頂とか、そういうお話になるわけでもなく。蓮きゅんちょっとは成長しろやこの野郎。

 とは思えど、まあ神父側も蓮きゅん側も意地は貫き通したわけです。彼らはやるべきことを行い、その行動が最適解ではなかったにせよ、相応の成果は得られていました。

 神父は、最期には“お父さん”になれました。あの言葉は、彼の存在の全肯定となったわけで、ようやく報われたわけです。彼の人生は、心は、あのひとことで完全にとは言わないまでも、救われたことでしょう。
 蓮きゅんのところは、未来に全てを託したエンドですが、まあ託せられる未来こそが、彼“ら”が手にしたモノなんでしょう。香澄は全てを思い出しましたし、蓮きゅんは「彼女が知っていた」ことを知りました。エンド後に、二人がどうなるかは、分かりません。分かりませんが、神父と先輩いうひとつの結末を見てしまっているわけですし、やっぱりこれからは今までとは違った関係を築いていくのではないでしょうか。既知から未知へ。過去に囚われるのではなく、未来へ進むのではと。

 マリィルートはテーマ(というより設定)消化とボス戦消化に、けれんみたっぷりのバトルを加えただけでキャラクターそれぞれの掘り下げがいまいちだったかなーっと。テキストメインのエロゲでよくぞあそこまで格好よく仕上げましたね、と言うひともいれば、テキストメインなんだから人物描写をきっちりやってドラマとして面白くして欲しかったなぁ、って人もいるんじゃないでしょうか。まぬけづらはどちらかと言えば後者。
 何よりマリィというキャラクターに、蓮きゅんが惚れていく描写が薄過ぎるのが難。メルクリウスというキャラクターが、マリィを反抗のための道具ではなくひととして愛していれば、またまぬけづらの感想も違ったんでしょうが。

■声優
 全体的なレベルの高い人員を配置したかと思うんですがルサルカやヴィルヘルムに比べて幹部陣のキャストさんの方が一枚劣る、というのはちょっと不思議な感じがしましたね。や、出番の多い役に実力あるキャストさんを振るというのは理に適っちゃあいるのですが、やっぱり作劇においては失敗だった感も。
 螢が攻略ヒロインじゃないんならザミエルにかわしまりのさんを振ればよかったのになー。でもまあ中ボス戦よりも雑魚戦闘員戦の方が盛り上がった、というのはまあキャストさんの問題というよりもシナリオ構成の問題でしょうし仕方ないのかな。尺の配分上のミスでしょ。

 あとはまあ蓮きゅんをフルボイスにして先割れスプーンさんの声をガンガン聴きたかったなーとかでしょうかね。少なくとも燃えゲーでは主人公のフルボイス化が業界的に普及していくといいなぁ。

■音楽
 なんだかロマサガちっくというか、往年のRPGで遊んでいるみたいな音楽がガンガンと流れていました。もちろんいい意味で。
 与猶啓至さんの名前は覚えておこうかなと、思えるほどには好き。

■グラフィック

 演出込みで、かなりレベルが高かったんじゃないかなと。CIRCUSのメタルチーム系みたいに一枚絵にエフェクトたっぷり掛けてムービー扱いで使用していたりと、ちょっとした工夫で高い効果を得ていたんじゃないでしょうかね。

 原画のGユウスケ氏はエロゲ原画初挑戦とのことでしたが、まったく違和感なく格好よくて可愛いキャラクターたちばかりでありました。暗めの彩色は作風とマッチしている以上に、素でこのゲームで一番苦労したところなのではないでしょうか。とても素晴らしかったです。