CLANNAD ~AFTER STORY~ 第4話「あの日と同じ笑顔で」雑感

 春原兄妹回は一貫して「智也ってほんっとダメだなー」という回でありましたね。

 原作プレイ済みの身でCLANNADに関して何か書こうとすると、酷いネタばれしか出てこないし、避けようとしても、どうしてもネタバレに触れた上で書きたくなってしまうので感想を遠慮していたのですが、今回はちょいちょいと。

   まず、智也は芽衣ちゃんの希望をなぜ叶えようとしたのかな。あまりに、無思慮ですよね。

 芽衣ちゃんというのはつまり兄離れの出来ていない子で、「お兄ちゃん、真人間になって!」→「ううん、真人間じゃなくてもいいの、あの頃みたいに戻ってほしいだけなの」→「芽衣のお兄ちゃんは芽衣のことをいつでも助けてくれるのっ!“わたしのお兄ちゃんはこんなんじゃないの!”」と、身勝手なお兄ちゃん像、“わたしのヒーロー像”を春原に押しつけたいだけなんですよ。

 春原はその意図を知ってか知らずか、彼女をやんわり突き放そうとしていた。2話で偽の恋人を用意したのは、見栄もあるでしょうが、「もうお前を守れない。自分の役目は終わっているよ」ことを示したかった。

 3話でいじめられている女の子を進んで助けなかったのは、これは芽衣に敢えて見せたというよりは智也とのスタンスの違い。智也の行動は前期の風子回にせよことみ回にせよ踏み込み過ぎなんですよ。人は自分の手足で目の前の問題に立ち向かわなければならなくて、時に誰かの手を借りることはあっても、その全てを誰かに背負ってもらうことを、してはならない。これは、「甘え・依存が生まれるから悪い」のではなく、本人が問題への対処方法を知ることが出来ないからしちゃダメなのです。

 智也のような「困っている子がいる!?よし、俺が(“全部”)なんとかしてしまおう!」をやられてしまった子は、自分で立ち上がる力を奪われているのと同じ。結局は女の子の方が智也の想定以上に「なんとかなる」子なので、そこまでの事態は生まれてはいな……訂正。渚以外は大丈夫なのですが。や、渚もしばらくすると勝手に安定するので大丈夫大丈夫(安定する理由は意味不明だよってことでなく、別に智也が安定させるわけではないということ)。

 智也の場合、後先考えているんだか考えていないんだか、人生を懸けて女の子を救おうとしちゃうんですよ。それは“重い”んですね、行う側にとっても、行われる側にとっても。だって、“誰かひとりのヒーロー”でいることはなんとか可能でも、“みんなのヒーロー”をやるのは手が足りないのが普通だから。

 人生の伴侶に対してはお互い持ちつ持たれるなのでそこまで気を張らずともよく、妹に対して兄が幼い時分の一時だけでもよく(大人になっても可能ですが、「いつでもお兄ちゃんはお兄ちゃん」が可能ですが、日常的には無理でしょう。本当の瀬戸際に助けるぐらい)、子供に対しての親も、本当は一時だけでよい。

 だのに、智也は気が多過ぎる。いや、お前無理だろ、責任持てないんだから捨て猫拾ってきちゃダメだろ、的なツッコミが為されてしかるべき行動ばっかりしている。面倒看れないのなら最初から手を出しちゃいけないんですよ。代わりに、自分や、自分の大切な人を助けることに力を注ぐべきで。

 おっと、脱線が激し過ぎた激し過ぎた。いきなり飛ばして結論書いちゃったよ!

 えーと、話を戻すと、春原が2話でいじめられて女の子を助けなかった理由は智也とのスタンスの違い。たぶん、よっぽど酷い状態になっていたら助けに入っていたことでしょう。
 で、道案内までしようとした一同の前であからさまに気乗りしない態度を取り、勝手にひとりで帰って行ったのは、そりゃ女の子のお兄ちゃんが登場したからですよ。

 あれでお兄ちゃんがうまくやろうが、下手を打とうが、ここはもう出る幕じゃない。そう判断したから。というのは、妹を守る兄の矜持、兄に守られることが嬉しい妹の喜びが、経験から彼には分かるから。家族の関係に踏み入ってはいけないと感じたから、でしょう。

 その後、「芽衣が悪い男にたぶらかされているのに放っておいたのはなんぞや」は4話において、春原自身が示していたので、これは言わんでもいいでしょう。

 つまり、早苗さんが、有紀寧が言っていたことですが、「確かに、春原はステロタイプの、誰にとっても分り易く“真人間”ではない。が、彼にもいいところはたくさんあって、分かり難いだけで悪い奴、最低な奴、では決してない」ということなんですよ。

 「妹にとってのヒーロー」を演じられなくなった春原を、責めていいのは、芽衣だけ。正当性はありませんが、これはふたりの問題で、家族の問題で、情の絡む問題。確かに春原には正当性がなくとも芽衣の意思を受け容れるという選択肢もありますが、幾ら親友とはいえ(もっとも、春原の方はあれだけダメダメな智也をしっかり信頼していても、逆はないようですが)煽ったり「お前ちゃんとしろよ!」とかしてはいけない問題。踏み込むなら、本当に人生を懸けるぐらいの覚悟が必要だった。智也が嘘ではなく本当に芽衣の恋人であれば、まー、踏み込んで行ってもいい。だから、春原はあっさり騙された。

 兄の贔屓目で妹を見て、「確かに、芽衣なら渚ちゃんを捨てて走ってしまうのもよくわかる」。親友の贔屓目で智也を見て、「やはり、芽衣に目を付けるなんてやっぱり岡崎は“分かる”男だ。そして、そうか。そこまでの覚悟で俺にぶつかってきたのか。なら、ま、任せたぞ。俺も妹は大事で、妹離れをするのは苦しいけれど、こいつなら……」と考えてしまった。

 結果、今回のエピソードだけでなく、これまでも、智也が一方的に春原に甘えるだけの関係だった、ということが露呈したのが今回。

 そもそも、智也が芽衣ちゃんの希望を執拗に叶えようとしたのは、芽衣ちゃんに自分を当て嵌め感情移入して、春原に自分の父を当て嵌めてしまったが故のこと、なんでしょう。

 だから、本エピソードにある「後味の悪さ」「残尿感」「え、これで解決したの?」というもろもろの感覚は正しくて、しっかり伏線として機能しているんでないかなーっと思いますよ。よく出来た回だったんでないかなと。