「幸せはまるであたたかな銃のようで」の感想文

 「ギヤマンの鐘」様のCOMIC CITY新刊「幸せはまるであたたかな銃のようで」読了致しました!
 テレビアニメ「TIGGER&BUNNY」の二次創作同人誌で、虎徹に寄り添った内容でした。

「革命後夜祭」(ギヤマンの鐘様公式サイト)
リブレット特設ページ

 以下長いので格納。
 ぼくはあまり二次創作の小説を読むことがないので、ちょっと新鮮な経験となりました。
 やはりまず一次にある作品の解釈の違いがキモなのかなと思って読み進めていたんですが、その心配は杞憂でした。スルスル内容がはいってくる!風牙さんの描くシュテルンビルトはぼくの感覚ととてもマッチしていて、凄く馴染みました。
 いや、ぼくはあまり自分の「シュテルンビルト感」と言うべきものを練り込んではいなかったのでこれは作者である風牙さんの筆致のなせる業なのかもしれません。

 本作「幸せはまるであたたかな銃のようで」は虎徹が主人公の物語で、彼に対する、ある種の願いのようなものが込められた作品だったように感じられました。
 彼の病的なまでの無鉄砲さや、彼の望み、そしてそれらが"結果として”どうなってしまっているのか、何に繋がっているのか、がよくよく説明されていたのではないでしょうか。

 虎徹が我が身を省みないのは恐怖や怯えから。
 これは風牙さんの作品から読み取ったことだけでなく、ぼくのタイバニ解釈も絡むのですが、彼はおそらく奥さんを失った衝撃から解放されていないままだと思うのです。もしかしたら、彼自身がヒーローとして参加した事件で助けられなかったのかも。もしかしたら、彼がヒーローとして他の誰かを救っているとき、奥さんは別の事件に巻き込まれて亡くなってしまったのかも。

 いろいろ理由は考えられます。
 とにかくわかっているのは、虎徹は「誰かを救うことで自分自身が救われたがっている」ということ。しかし同時に「自分は救われてはいけない」という想いもどこかこころの深い部分に宿っていて、この二律背反が結果としては相乗効果を生み、彼の「生存にたいする鈍感さ」に繋がるのではないかなと。

 他に重要なこととしては、本作だと虎徹の瞳が映しているの現在ではなく過去であり、彼が見ているのは自分自身という世界のみ、なのかなと。(実は本編の虎徹もそうだと思いますが)

 彼は楓のことを、見ていない。バニーちゃんのことを見ていない。冒頭で救おうとしていた母娘すら、見ていない。現在のことはなにひとつとして見えていない。

 楓は九九が覚えたどころか、もっともっと成長していることでしょう。恋だってしている。しかし、彼は会っていない。会えていないのではなく、会おうとしていない。スケートリンクで相見えたときぐらい、ほんとうはバイザーをあげて、マスクをはずして笑いかけてあげたってよかったのに。自分の母親にはいえているのだから、娘にだってお父さんはヒーローなんだぞ、と言ったっていいのに。(この辺、彼は自分がヒーローに「成れている」という自覚はないのかもですね。本作P16あたりを読むに)
 娘の話を振ると彼のこころがフリーズしてしまうのは、過去しか見ていないから、なのかなと。現在の彼女が何を思って、どのような未来を志向しているのか、歩んでいくのかをほんとうは考えることができていない。

 バニーちゃんに抱かれているとき、彼が見ているのはかつての自分であるし、彼が頭を撫でてあげたいのもかつての自分。変形した自己愛。ふたりのまぐわいは実のところ虎徹によるいびつな自慰行為。

 虎徹の酷いところは楓には奥さんを投影しているくせに、奥さんのこともどこかで呪縛だと思っているところだと思うんですよ!!ほんとうに酷い奴です、最低です!!!
 ……でもぼくは、本作から希望のような、あるいは願いのようなものを感じました。まだ虎徹が終わっていないって。救われてもいいんだよって。幸せになってもいいんだよって。

 それは彼の手で救われてきたひとは確実にいるし、そして彼に手を差し伸べたいと考えているひとたちも確実にいるということ。虎徹がそれを望まなくても、いつか誰かが彼を引き上げてくれるかも。顔にグーパンして目を覚ましてあげられるかも。……彼自身が、(バニーちゃんと触れあうことで)過去の自分としっかり向き合うことで、なにか新しい道が拓けるかも。

 ぼくはそんな可能性を本作から感じました。CITY当日は暑かったのですが、某ドトールで休憩しながら読んでいるときに目から汗がちょちょ切れてしまったほどですよ><

 この作品だけをみても風牙瑠璃さんという作家さんにはとても広い可能性を感じました。
 最近では基本的にAPHを主戦場とされているようで、そちらでもすばらしい作品が多々あるみたい!

 CITYでブースへ伺ったときにとりあえず既刊はすべてゲットしてきたので順次感想をあげようと思います。どれも装丁が変態的なまでに凝っていて読まずともオーラが伝わってくるよ……!