『Live Flowers』天根和幸(あかばらさ)、容(詩架)、水無瀬(詩架) 感想

 ちょっと変な題の記事。本書は一応『詩架』さんで発行されているのですが、企画当初は天根さんとさんの合同誌の予定だったとのことで、こんな形に。

 正直読むまでは「吉井和哉のトリビュート本」ってなんぞや、と思っていました。いやなんとなくは分かっていたのですが、なんとなくでしかなったというか。
 ぼくは「おそらく楽曲の世界観を小説の形に起こしてあるのだろう。本来の歌詞から読み取れる世界観を広げてあるに違いない」という具合の想像しかしておらず。いやそれでもある種の二次創作には違いないのですが、想像を超えていました。ひょいっと簡単に。

 以下感想。

『BURN』天根和幸
 イエモンのBURNと言えば名曲であるわけです。もっとも、というほどでなくても、彼らの楽曲の中では十二分に有名でしょう。ぼくももちろん好き。

 ええと、言葉が出ない。出ない。
 ここで行われているのは、楽曲単体の解釈ではなくて、吉井和哉の解釈です。

 いつか天根さんをやっつけてやろうと思いました。

『M』天根和幸
 BURNと違って圧倒される感じがなく、スルスル読めてしまいます。ええと、”吉井和哉として”スルスル読めてしまいます。彼の書く詞のような一人称だとか、そういうことだけではなく、ほんとうに自然と吉井和哉している。吉井和哉が在る。
 読み終えてそのことに気づくと、打ちのめされ、自分が作品に呑まれていることを知るわけです。

 ……やっつけてやろうと思ったけどこれは分が悪いなと思いました。

『CALL ME』
 ぼくはYOSHII LOVINSONのCALL MEから吉井和哉に入りました。このブログでも過去に何度か書いたような覚えはありますけどね!なので、とてもとても思い入れ深い曲です。この曲を聴きながらアバタールチューナーのヒートに思いを馳せたことも懐かしい。おっと余談が過ぎました。

 ええ、ですので、かなり注力して、本作を読んだわけです。

 歌を受ける側のお話でした。
 もともと楽曲にある隙間を埋めている、あるいは世界を広げている。おお二次創作みたいだ!って最初からこのトリビュート本は二次創作で間違いない、上の方の人がおかしいチートをしているだけ。

 このあと彼女が電話をかけたのか、かけなかったのか、はてさて、それはどうかな。でも、”歌”と繋がっているのが、そう感じられたのが昂ぶりました!

 かじかんだ
指先が脈打った。私は伏せていた顔を上げる。ポケットの中の手を、つなぐ形にまるく握る。


 の文が好きです。ここは書き手本来の文章だから。この直後から”歌を受ける”ことになるわけですが、この「ラストパス」とも言うべきところに、書き手らしさが強く宿っているように感じられたのが、僕は凄くよいなと思いました。

『SNOW』
 一次創作寄りの二次創作。九割九分九厘一次創作。吉井和哉トリビュート本として出されてるから二次創作と呼んでいるだけですね。

 生き物の溢れる森であるのに、静謐。大きな鳥かごの世界。飛び立つ鳥はもう一羽をまた連れ出しにくるのだろうと、ぼくは思いました。そう信じられました。

 あの楽曲をこう解釈するのか、ふたつでひとつとみるのか、こう広げるのか、なるほどと強く感じ入った作品でした。

『HEART』天根和幸
 読み始めてこれが一続きの物語であることに気づいた瞬間、息が止まりました。すぐ吹き返したけどネ!

 吉井和哉という人間を解釈したものですね。というか、そうか、歌のBURNで本来描かれているものは当時の奥さんであろうことをしっかり把握した上で、My FOOLISH HEARTの「あなた」も彼女であろうという解釈か。その上でこの作品か。凄いな、とてつもないな。

 ……やっつけるどころか追いかけるので精一杯なんじゃないかなと思いました。

『Route66』水無瀬
 非常に技巧的。本作は『人それぞれのマイウェイ』と『LOVE&PEACE』の2曲を下敷きにしています。楽曲のテイストをうまく融合させ、活かしつつ、ひとつの世界を作っている。書き手の世界ではない。でも、一見して歌の世界と分からない(あらかじめ「この2曲を使ったよ」と言われれば話は別でしょうけどね)。しかも、その上で、本書Live Flowers全体をまとめに行ってる。大変技術の高い仕儀でありました。

 具体的にいえば、

 そうだな、一輪の花とか、ガタが来ても愛着があって手離せない車とか、そういうものになれたらいい。


 この一文が大変吉井和哉でありLive Flowersでありすごくすごくよかったですね。ほかにも好きな一文もありますがそこは割愛。

【おわりに】
 大変おいしゅうございました!
 だいたいですね、吉井和哉とはですね、普段ゲームやアニメの音楽しか聴かないぼくがですね、どうしてかきちんと好んでいるロックスターであるわけです。ということはですね、詩架さんに対する評価が定まっていない状態で、たまたま本書と出会ったとしても、トリビュート本とかなにそれそんなの誰も書いてないごちそうじゃん食べたいよ、と思うに違いないわけであります!!

 期待に違わぬ、というか、期待以上のごちそうでした。また書いて欲しい。もちろん吉井で。

 今回の記事のなかで「一次創作」とか「二次創作」とかって言葉が乱舞しています。これは以前から言っているように、ぼくがどちらかといえば一次創作を好んでいるからです。
 一次創作と二次創作のどちらかがより尊いもの、よりよいものなのだ、とかそういう話ではなくて、ぼくは基本的に自分の作品解釈が一番大事なので異なる作品解釈で描かれる二次創作を素直に読めないきらいがあるんですね。その上で二次創作でも「ぶっちぎられる」作品があることを知っています。ぼくの作品解釈がぶっちぎられることもあれば、あるいは元ネタの作品そのものをぶっちぎってしまっていることもあります。良い意味で。

 なのでまあその程度の意味合いしかないので、お気を悪くされませぬよう願いたいところでありますね。

 あ、天根さんに関しては「読んで感想を書こう、違う土俵にいればいいのだ」と方向転換することに決めました。