『埒外』詩架 感想

 先日のSUPERCOMICCITY関西18にて頒布された『詩架』さんの新刊。五つの掌編から構成される本書。
 まずデザインが美しい。表紙デザインは『あかばらさ』の天根和幸氏。夏であること、そして”埒外”であることがよくよく表現されています。収録作のどれとも世界観を共通していないのに、でも雰囲気がよく馴染んでいる。あとまあこれはデザインとは違うんですが、表紙が陽に透けて現れる文字がまたいいですね。偶然だと思いますが!

 以下感想。

『かげろう』
 これは小説ではなく詩、ですね。
 夏だから立ちのぼるゆらめき。どちらでもない不定形の可能性の、終わり。

『Without hope,we live in desire』水無瀬
 夏の情景、田舎の寂れた駅、仰々しいだけの葬式、それらがきちんと浮かぶ確かな筆致。鎧の防御が意味をなさなくなったあとの、”異界化”はよかったですね。すごくすごく自然に入っていった。
 「シャベルで金錆びたた匂いのする手で」の一文から一気になまめかしくなるのがすばらしいですね、それまでが乾いているだけに。

 本作はこれはこれで独立しており完結していますが、詩架さんの既刊『不在』から読んでいると話のつながりに気づけます。そちらも事前に読んでいた方が大きなうねりを感じられることでしょう。

『朱光』
 正直に言えば、一読して「3.や4.もあるのだろう」と思っていました。あれっと思いながら再読して、この2篇だけであることに気づく。
 2篇目は、まさに”埒外”の関係で大変よろしい。

『青春時代の真紅なHEROとオカルト娘に敬意を』天根和幸(あかばらさ)
 『あかばらさ』の天根さんが寄稿された作品。
 本作は二次創作なんですが、ちょっと凄いですね。ええと、”オカルト娘”のキャラクター解釈が凄い。元作品のイメージと異なっているようで、でもこれはこれでただしく映る。彼女にはこういった面もあったことでしょう。違和感が生まれないのが凄い。
 精緻な文章もよいのですが、キャラクター解釈に拍手喝采

『仮夜』
 バルタザールの遍歴を読み終えた直後なので、「こ、コルヴィッツ……!?」みたいな気持ちになりましたが、当然そんなことはなく。彼以上に孤独のお話。孤独だった、お話。
「この迷妄こそが私の執着である」
 が好きです。それこそが、でもあなた自身だ、と感じるので。

【終わりに】
 5篇ともそれぞれまったく違った世界観であるのに、ひとつのお題にきちんと則ってお話が作られているのが大変よいですね。雰囲気のよい作品集でした。
 本書はすべてそれ単体で楽しめますが、どれも詩架の過去作品を追ったり、二次創作の元ネタにあたったりするとより一層楽しめる仕上がりになっています。詩架作品の既刊の多くはまだ在庫があるのですが、在庫のないものもあります。それについてはどうも春には総集編を出すようなので、ぜひ手にとってみてはどうでしょうか!
 あ、ちなみに天根さんの作品についてはここでは元ネタを書きません。読んで気づいて欲しいですね!