『ロウきゅーぶ!』の感想文です


ロウきゅーぶ! (電撃文庫)
ロウきゅーぶ! (電撃文庫)
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 七芝高校へスポーツ特待生として入学した長谷川昴。
 念願叶って新天地へやって来た昴だったが、しかして入学から一週間と経たず彼の所属するバスケ部は一年の謹慎を言い渡されてしまう。

 すっかり腐っていた彼のもとへ小学校教師を勤める叔母から「女子バスケ部のコーチをしてみないか?」との申し出があったが……彼には容易に受諾できない理由があった。

 ――それは、バスケ部謹慎の理由が部長のロリコン疑惑だったからである。

 妄執じみた情念と、冷静たろうとする理性の間でもがく彼の出した答えは………


 こんな感じのあらすじ。間違いは、書いていないはずです。たぶんきっと、おそらくは。

 一言にまとめると、「腐ってた男の子が自分と同じような立場の女の子を助けて、彼女に仮託した願いを昇華することで自らも立ち直るお話」ですかね。ほんのり大仰に言えば「傷心の青年が失われたと感じていたアイデンティティを、実は見失っていただけと気付くお話」でしょうか。

 以下本文引用ありのネタばれありの感想。


 主人公と出会うキャラ出会うキャラ「ようロリコン!(あるいは「ロリコンホープ!」)」的な挨拶をしてきたり、女子小学生に「お帰りなさいませご主人様」とか言われたり、女子小学生に「おにーちゃん」とか言われたり、恥じらいつつスカートをたくしあげられた女子小学生の下半身から目が離せなかったり、可憐な女子小学生が手折れる倒れる姿に兄性本能――アニキ魂――を覚醒させたり、

 智香に気を遣わせてはいけない、何か話しかけなくては。そんな焦りが、ますます頭から言葉を奪っていた。

「………………どきどきします。……いけないこと、してる」

「……ははっ、ごめんな。いけないこと、させちゃって」


それは、夢に見た通り、もはや冗談みたいに芸術的で。
 それが、まるで本当に徐運だったかのように、忽然とこの世から消えてしまおうとしていた。
 ……なんだか、西洋の飴細工に似ている。漠然とそんなことを思った。
 少女の華奢な体が描く大胆なアーチは、いつかテレビで見た、職人の指先が魔法のように形作る琥珀色の糸が織りなす飴細工のようにきらきらと輝いていた。
 でもそれはきっと、ほんの少しふれただけで、僅かな風や熱に晒されただけで、ひび割れ、融け、崩れてしまうのだ。
 そんな危ういバランスで奇跡的にこの日まで保っていたものだなんて何も知らずに、俺はその飴細工に――


 中略

そして、いつ壊れるかも分からない脆弱さに気付かぬまま、身勝手な善意を抱き、べたべたと、闇雲に、不必要に触れ回り――――
 因果応報のように。あろうことか自らの手で砕いてしまったのだ。

「……………シャワーまで借りてしまって。本当にありがとうございました」
 智花がちょっと困ったような笑顔で間を作り、再訪の誘いをやんわりとはぐらかす。
 たぶん……いや確実にもう二度と、ここに来ることはないと確信していて、でもそれを口に出すことは躊躇われて、苦肉の策でそうしたのだろう。



メイド服は速攻で脱がせた。苦情は受け付けない。時間がないのだ。



 引用は以上。


※あとは書店で立ち読みでもして、周囲の安全を確認しつつ、一瞬だけ231ページを開いて、「よし!」と思ったらそのままレジへ行った方がいいでしょう。僕のものだけでなく、未読の段階では他所様でも詳細な感想とかを読むのはお勧めしません。



 作家であるところの蒼山サグさんの婉曲的で示唆深い言い回しだけでなく、イラストのてぃんくるさんもパンチラ、パンモロ、裸、などなど自重しません。口絵とか、スパッツが下半身に食い込んでいるしね!

 本作は確かに青春ものではありますが、誤解を恐れずに言うとお話の構造的には青橋由高作品に似ていますし(「メイドなります!」「純情~彼女は剣道部!」など)大丈夫なのか電撃文庫

 そんなわけで、諸兄の色んなフェティシズムをくすぐることは間違いないでしょうし、青春ものとしても優秀。どこか皮肉的に自分の現状を見据える昴がふたたび“走り出す”までの展開に燃える方も多いはず。

 ま、高校一年生の男の子と小学校六年生のカップリングって冷静に考えれば4歳差だし、これをロリコン呼ばわりするのはいささか可哀想でしょう。










 しかし、僕の印象は心地よい甘酸っぱさ、爽やかさを感じつつも、どこか危うさも感じてしまったのですよね。

 いや、上で書いたことはほぼ釣りというか、意図的に誤解を誘発させようという努力ではあるのですが、けれどもあながち間違いではないように思うのですよ。

 彼が性的な衝動を感じている描写は少なからず存在しているので、その気持ちにドキドキしたりまごついたりする描写をも少し増やしてもよかったんじゃないかな。特に、智花相手に。

 これを言い訳せずに認められるように、なって欲しいな。

 常に昴が上位の立場にいて、少女たちが下位の立場に居続ける。そして性的な欲求を募らせているのに、どこかで言い訳してしまう昴、という姿は、少し不健全に見えるし、それが仮に“暴発”してしまったときに何の障害もなく受け入れてしまいそうな、少女たち。

 これが危ういかな、と。
 少女たちは耳年増な面もあるし、どこか大人びている面もあるけれど、やはり無垢さが際立っていて、この純粋さは専らの二次元ヒロインと違い、「幼いが故のもの」という理由づけもしっかり成り立っている分だけ、強く感じてしまう。「尋常じゃない純粋さはお約束だよね」と流せないものがある。

 これは別に現実の小学生が危ういほどに純粋である、ということが言いたいのでなく、本作で(おそらく無自覚的に)語られているのは、もしかして、本当にロリータコンプレックスのことで、“少女性”あるいは“処女性”とも言うべきテーマのような、そんな気もするんですよね。

 実際、昴はひとの生涯の中では一過性の、幼いが故の美しさに惹かれるわけで。様々なものが混じり合って構成される人間性ではなく、混じりけのない人間性に惹かれるわけで。

 それを、恋愛(執着・情愛と言い換えても可)に繋げるのは、少し、危ういかなと。

 僕は対等な関係性、対等な力関係を、擬似的にでも構築した上での恋愛が見たいかな。なんだ、ピグマリオンコンプレックスか、と言わずとも済むような。

 彼らの立ち位置は、GUNSLINGER GIRLのトリエラとヒルシャー(このふたりは恋愛、というとまた違った趣がありますが)、あるいはこどものじかんの青木先生とりんのようには、離れていないのだから。